フェ シュピール。 【MHWアイスボーン】アイスシュピールの派生と強化素材【モンハンワールド】|ゲームエイト

【MHWアイスボーン】アイスシュピールの派生と強化素材【モンハンワールド】|ゲームエイト

フェ シュピール

神官長先生によるフェシュピールの練習が始まった。 わたしに手渡されたのは、初めて練習する子供向けの小さなフェシュピールとはいえ、自分の身長から考えると、結構大きいものだ。 子供用の弦の数は大人用のフェシュピールに比べてかなり少ない。 大人用が5オクターブくらいの音域があるのに比べると、およそ半分ほどで、弾ける音域はピアニカ二つ分くらいだ。 「肩に立てかけるようにして支えるのだが、斜めになるとだんだん重みが増してくる。 なるべく真っ直ぐに支えられるようになりなさい」 「はい」 神官長がしていたように、太股の間に挟むようにして左の肩から二の腕で支えるようにして持つ。 基本的に木でできていて、重い素材があまり使われていないので、支えるだけなら、わたしでも何とか構えることができた。 「フェシュピールは全ての音が詰まった楽器と言われている。 これで音を覚えれば、他の楽器を触る時にも役に立つ」 練習用の楽器だからだろうか、一本だけ弦に色が付いている。 その弦を神官長がピィンと弾いた。 「これが一番基礎になる音だ」 ……あ、ドの音だ。 母に無理やり習わされたとはいえ、麗乃時代にピアノを三年ほど習っていたわたしは、ここでも音楽の基本となる音がドであることを知った。 一本飛ばしてレ、更に一本飛ばしてミ。 ずらっと並んでいる細い弦だが、半音ずつ音が変わるようで、ピアノの弦を直接弾いているような感じだ。 ピアノと違って黒鍵がないので、音を探すのが非常に難しいのだけれど。 「これが音階で、高く、あるいは、低く、音はずっと続いていく」 数字を覚えた時のように、神官長が説明していく基本の音階が脳内でドレミファソラシと置き換わっていくのがわかる。 慣れるまでスラスラ弾くのは難しいだろうけれど、色のついた弦がドだとわかれば、自分が知っている曲を弾くことはできそうだ。 「さいた……さいた……」 こちらの言葉に合わせながら、わたしがたどたどしく「チューリップ」を弾いて満足していると、神官長が軽く目を見張った。 「何だ、その曲は?」 「聞いたまま、お花の歌です」 ここにはチューリップが存在しないが、神官長が全ての花を知っているわけでもないので問題ない。 わたしが言いきると、神官長が顎に指を当ててしばらく考え込んだ後、わたしを見下ろした。 「……君には音楽の才能があるのではないか?」 「いえ、ないです! これっぽっちも!」 しまった。 自分からハードルを上げてしまった。 初めて触った楽器でいきなり自作した曲を弾くなんて、エピソードだけ見れば、まるでモーツアルトのようではないか。 あんな天才を見るような目で見られると困る。 わたしが暗譜しているのなんて、学生時代に覚えさせられた学校唱歌とピアノの発表会で弾かされた数曲くらいだ。 音楽の才能なんてないのだ。 「いや、自分から決めつけるものではない。 正直平民に一体どれだけできるか、と不安に思っていたが、これなら物になるのも早そうだ」 わたしの必死の否定に構わず、神官長はニヤリとした眼差しで練習計画を立て始める。 主に、わたしの大事な読書の時間を削る方向で。 「あの、神官長。 わたくし、これ以上読書の時間を削る気はございませんよ?」 「だが、楽器を覚えるには毎日の練習が必要不可欠だ」 「えぇ、それは存じております。 それでも、読書の時間だけは譲りません」 孤児院の様子を見に行ったり、マイン工房の様子を見たり、神官長のお手伝いをしたり、フランが忙しかったり、神殿にいても図書室に籠れる時間はそれほど長くない。 ご飯の時間はきっちりと管理されているし、鎖に繋がれていて貸出もしてもらえないのだから、本を読める時間は神殿に入る前にわたしが考えていたよりもずっと少ないのだ。 「わたくしが神殿に入るにあたって、神官長から提示された仕事内容は魔力の提供と図書室の整理でございました。 神官長の執務のお手伝いは、あくまでわたくしの善意によるお手伝いということになっておりますよね? 神官長のお手伝いする時間をフェシュピールの練習に当てたとしても、読書の時間は絶対に譲りませんわ」 グッと言葉に詰まった神官長だったが、執務と音楽を秤に乗せた結果、音楽の方が重要だと判断したらしい。 神殿に来てから3の鐘が鳴るまでの時間をフェシュピールの練習に当てるように言われた。 「では、ヴィルマとロジーナに通達しておくように。 それから、時々確認に来るので、そのつもりでフェシュピールの練習に励みなさい。 怠けていたらすぐにわかるぞ」 「はひ……」 特大の釘を刺されてしまったけれど、監視されなければ、あまり興味のない楽器の練習なんて真面目にするわけがない。 そういう意味では神官長は実に正しい。 「では、マイン様。 孤児院に参りましょう。 ヴィルマとロジーナを側仕えに召し上げなければなりませんから」 神官長を見送った後、わたしはフランと一緒に孤児院に向かうことにする。 そして、孤児院で話をしている間に、ロジーナが使うための部屋をデリアとギルに掃除してもらう。 「任せとけ。 戻ってくるまでには綺麗にしてやるからな」 「ギルの掃除はルッツが驚くくらい速いもの。 よろしくね」 「おぅ!」 フランと孤児院の食堂に赴き、ヴィルマとロジーナの二人を呼び出してもらった。 わたしが呼び出す意味を知っているのだろう、マイン工房の仕事を終えた孤児院の子供達は興味津々の目でこちらを見ている。 「マイン様がヴィルマを側仕えにするのですか?」 「ヴィルマ、いなくなっちゃうのですか?」 小さな子供達が不安そうにわたしを見つめてくる。 ヴィルマは相当子供達に慕われているようで、孤児院に残すことができてよかったと安堵の息を吐く。 「ヴィルマを側仕えにします。 そして、孤児院の院長としてわたくしはヴィルマには孤児院でお仕事していただこうと考えています。 貴方達のお世話というお仕事ですわ」 「わぁ! ホントに?」 「ヴィルマはいなくならない?」 歓声を上げた子供達が食堂へと姿を見せたヴィルマの元へと我先に駆け寄っていった。 服を引っ張り、腕を引っ張りながら、ヴィルマにまとわりつく。 「ヴィルマ、側仕えのお仕事は孤児院でするって!」 「ヴィルマが言ってた通り、マイン様が何とかしてくれたよ!」 子供達を引き連れながら、ヴィルマは嬉しそうな笑顔で足早にやってきた。 「マイン様、お話があると伺いました」 「えぇ、先日お話した通り、ヴィルマをわたくしの側仕えとします」 わたしはヴィルマに席に着くように示し、子供達はお話が終わるまでは離れて静かにしておくように言い渡した。 波が引くように子供達は壁際へと並び、それでも、嬉しそうな顔でこちらをじっと見ている。 わたしは正面に座るヴィルマを見た。 穏やかな茶色の瞳が嬉しそうに潤んでいる。 「側仕えとなったヴィルマの仕事は、洗礼前の子供達の世話とわたくしが依頼する絵を描いてもらうことです。 幼い子供達は夜中に熱を出すこともあるので、基本的に孤児院で生活していただくことになります。 神官長にもお話しておきました」 これで、ヴィルマは孤児院の女子棟に籠ったまま、生活することができる。 他の青色神官に召し上げられて花捧げに利用されることもない。 「ありがとうございます。 精一杯、マイン様にお仕えしたいと存じます」 「お願いしますね」 ヴィルマに通達した後、ロジーナが食堂に現れた。 以前に見た時には後ろで一つにまとめていた髪を今日はハーフアップにしている。 トゥーリと同じようにふわふわとうねる栗色の髪に鮮やかな青の瞳が輝いていた。 「マイン様、お話があると伺いました」 ロジーナは大人びた綺麗な顔立ちをしている。 髪をまとめていないので、まだ成人はしていないようだ。 癖のある髪が豪奢で、立ち居振る舞いが楚々としているので、清楚なお嬢様に見える。 ヴィルマとロジーナの振る舞いを見ていると、芸術が好きだったという前の主の立ち居振る舞いが目に浮かぶようだ。 ……多分、ロジーナのような立ち居振る舞いを神官長からは望まれているんだろうな。 わかるけれど、人間、向き不向きというものがあるのだ。 美人で動きの一つ一つが洗練されていて、教養まである側仕えとこれから比べられるのか、と思うと、何となく重い溜息が出てしまう。 「ロジーナをわたくしの側仕えにします」 「まぁ!」 信じられないとばかりに、ロジーナは口元を押さえて、頬をバラ色に染め上げる。 わたしが同じことをしても、周囲の感想に雲泥の差が出るとわかる仕草に、軽く目を伏せた。 ……美人さんの可愛い仕草は、卑怯だと思います。 「神官長に教養を身につけよ、と言われ、ロジーナを側仕えにするよう勧められました。 ロジーナの仕事は、わたくしが神殿に着いてから3の鐘が鳴るまで、わたくしにフェシュピールを教えることと、それ以外の時間は他の側仕え達と同じように仕事をしていただくことになります。 よろしいかしら?」 「えぇ。 えぇ、もちろんですわ。 何の否がございましょうか。 フェシュピールは私が一番得意な楽器なのです」 話を終えたわたしはロジーナを伴って、ヴィルマと子供達に見送られながら孤児院を後にした。 孤児院に個人の荷物はない。 身一つで部屋を移動し、側仕えの生活に必要なものは主が準備することになるのだ。 部屋に戻ると一階にロジーナを待たせた状態で、フランはわたしを二階へと連れて行く。 決して一階には下りずに寛いでおくように、と言い含めた後、ギルとデリアを連れて一階へと戻っていった。 一階に側仕えが集合し、フランによってそれぞれの紹介が行われる。 どうやら、こういう側仕え間の連絡などは主の目に触れさせてはならないらしい。 放置されて暇だったわたしは、神官長が書き残していったこの世界の楽譜を眺めていた。 第一の課題曲である。 それほど長くはないけれど、耳慣れない曲を覚えるのが難しい。 ふいに「オレ、工房の片付けや施錠の確認をしてくるからな」と言うギルの声が聞こえ、部屋を出て行く音がした。 紹介や一階の案内が終わったようで、フランが女性用の側仕え部屋へと案内するためにロジーナと一緒に二階へ上がってきた。 デリアはロジーナの部屋を整える手伝いするため、一緒だ。 「まぁ! フェシュピールが……。 マイン様、早速弾いてもよろしいでしょうか?」 部屋に大小二つ並んで置かれているフェシュピールを見て、ロジーナが感極まったような声を出した。 自分が求めるものに久し振りに巡りあえた時の感激を知っているわたしは、すぐに頷いてあげたかったが、デリアの声に思いとどまった。 「もー! ロジーナさんったら! 楽器は逃げませんわ。 先に部屋を整えたほうがよろしいですわよ」 「……デリアの言うとおりね」 デリアに部屋を整えるのを手伝ってもらっているのに、当人が楽器を掻き鳴らしているのは良くない。 名残惜しそうにフェシュピールを見ながら、ロジーナが部屋へと入っていった。 まだ荷物は少ないので、部屋を整えることにそれほどの時間はかからないはずだ。 「マイン様、フェシュピールを弾いてもよろしいでしょうか?」 部屋を手早く整えたロジーナにわたしが頷くと、ロジーナは青い瞳を嬉しそうに輝かせて、フェシュピールを手に取った。 細い指先でフェシュピールをそっと撫でて、一つ弦を弾く。 高い音が響き、それを軽く目を伏せて、うっとりとした表情で聴きながら、溜息を吐いた。 「ロジーナの弾くフェシュピールを聴きたいわ。 弾いてみてくださる?」 「かしこまりました」 ロジーナはフェシュピールを抱えると、軽く腰を落として、ふわりと踊るように手を上から下へと動かした。 バレリーナの挨拶に似た動作の後、ロジーナは椅子に座ってフェシュピールを構える。 ロジーナの指が柔らかく弦を撫でるように軽やかに動くと同時に、繊細で儚い音が紡ぎだされた。 同じ楽器を奏でているはずなのに、演者の個性か、選曲の違いか、神官長の音と少し違って聞こえる。 細く高い声で歌われる歌はやはり知らないものだったが、潤んだ瞳も綻んだ口元も、何もかもが楽器を演奏できる喜びに満ち溢れていた。 「……とても素敵な演奏でしたわ」 「光栄です。 また、演奏できるなんて、私、本当に嬉しくて……。 心をこめてお仕えさせていただきますわ」 こうして、わたしの側仕えは二人増え、日課としてフェシュピールの練習が入ることになった。 次の日、わたしは父と一緒に門へと向かっていた。 タウの実を探して、トロンベを大量に採っておくためだ。 ルッツは孤児院へ行って、孤児達を連れて来てくれることになっている。 門で合流して森へ行くのだ。 「男の子かな? 女の子かな? 父さんはどっちが良い?」 今の父との会話は、赤ちゃんのことしかない。 似たような話がエンドレスだが、楽しみで待ちきれないので、話題になるのは仕方のないことだ。 トゥーリは最近「マインは父さんと話してくると良いよ」と言って、あまり相手にしてくれなくなった。 「……難しいな。 男だったら、家の中にやっと仲間ができるし、女だったら、可愛いからな」 「わたしもどっちでも可愛がるよ! 絵本を作って読み聞かせもいっぱいするもん」 「そうか、そうか」 門に着いて少したつと、孤児院の子供達がルッツに引き連れられてやってきた。 「ルッツ、マインを頼むな」 「わかってる。 アイツが背負うから大丈夫」 ルッツが指差したのは、見習いの中でも体格の良い男の子だった。 背中を向けてしゃがんだ彼の背中に背負ってもらって出発する。 わたしが歩くと、みんなが困ると言われれば、おとなしく背負われているしかない。 「マイン様と森へ行くのは初めてだな」 うきうきした様子のギルの言葉にわたしは頷いた。 神殿に向かうようになってから、わたし自身は全く森へ行かなくなっていた。 孤児達を引きつれるルッツの負担が大きくなりすぎるせいだ。 今回はわたしを背負える人員を連れて行くことと、孤児達も森に慣れてきたことで行けることになったのである。 「タウの実を拾って、また木を刈りましょう。 今のうちからお金を貯めて、冬の薪や食料を買い込まなければならないもの」 家族四人の冬支度でも大変なのに、孤児院の冬支度なんて、どれほどお金がかかるかわからない。 神の恵みがあるので、足りない分を補うだけだが、どれだけ足りないかがわからないのだ。 森で薪を拾い始めたのも、ここ最近のことだ。 細い木切れならともかく、太い木は1~3年くらい乾燥させなければ薪として使えない。 今年の冬の薪は基本的に買うことになる。 「冬に温かい部屋で飢えずにいられたら最高だよな。 ……でも、冬って紙も作れねぇから森にも行けねぇんだろ? 何するんだ?」 孤児院の子供達は基本的に孤児院に閉じ込められた生活をしている。 森に行けるようになって、紙作りのために森と孤児院を往復するようになったけれど、冬は森へ行けないとなれば、また閉じこもる生活だ。 ギルはつまらなそうに唇を尖らせた。 「孤児院でできる冬の手仕事を考えなくちゃね」 トゥーリと母は髪飾りを作る手仕事をコリンナから回してもらう契約になっているが、孤児院の子供達に回してもらう約束はしていない。 何か新しい手仕事を考えた方が良さそうだ。 森に着くと、わたしは基本的に集合場所で待機だ。 わたしが周辺の木切れを拾ったり、実っている果実を取って口に入れたりしているうちに、みんなが採集を終えて戻ってきた。 拾ったタウの実は4つ。 星祭りで大量に持っていかれるし、ぽよぽよに膨らんだ水風船のような実は獣に踏まれたりすると簡単に割れるので、あまり残っていなかったようだ。 わたしは渡されたタウの実を手に持って、魔力を流しこむ。 見る見るうちに姿を変えていく実にも少し慣れた。 子供達はみんなナイフや刃物を構えて、臨戦状態だ。 「いくよ!」 「よし、こい! にょきにょっ木!」 タウの実を投げると、子供達の間で定着してしまった「にょきにょっ木」がぽこぽこと芽を出し始める。 ここから先にわたしの出番はない。 最後尾に下がって待機だ。 大きな石に座って子供達の刈り方が手慣れてきたことに感心しつつ、孤児院での手仕事について考える。 ……去年の冬は髪飾りを作るのと、ルッツのお勉強で忙しかったんだよねぇ。 ……あ! お勉強もいいかもしれない。 せっかく時間があるのだから、子供達に字を教えるのはどうだろうか。 石板と教科書を準備して、冬の間に神殿教室を試してみるのもいいかもしれない。 読み書き計算を教えるのだ。 いずれ本を作る工房となるマイン工房の識字率から上げていこう。 どうせ側仕えになれば覚えさせられるものなのだから、小さいうちから覚えても問題ないだろうし、側仕えでなくても覚えておいて損はないはずだ。 ……だったら、ヴィルマに作ってもらう絵本は子供用の聖典がいいかも。 聖典の内容を子供向けにわかりやすく簡単な言葉に直していけば、孤児院の子供達には普通の物語より取っ付きやすいに違いない。 そして、教科書用に絵本を作るなら、ここはぜひとも量産体制をとりたい。 孤児院の子供達用にいくつも本を作るつもりなら、ヴィルマに一点一点挿絵を描いてもらうのは無理だ。 ……でも、印刷機がねぇ。 量産するに当たって、印刷について考えてみたが、凸版印刷にしても、ガリ版印刷にしても道具を一から作ることを考えると、冬までにできるかどうかわからない。 日本語と違って、基本文字が多くはないから凸版印刷でも何とかなるとは思う。 ……うーん、凸版印刷は圧搾機が扱えるくらい力がないと難しいから、子供達が刷るならガリ版かな? 鉄筆は鍛冶工房のヨハンに頼めば問題ないだろうけれど、原紙をどうするか考えなければならない。 蝋引きの紙を作るにも、蝋の工房は冬支度に向かって一年で一番忙しくなる季節だ。 新しい商品の開発に付き合ってくれる余裕があると思えない。 ……だったら、今回は版画かな? 最初の教科書は一番簡単な版画で作ることにしよう。 ヴィルマに頼んで、板に絵を描いてもらって、木工工房にでも頼んで彫ってもらって、刷れば、比較的簡単に複数の絵本ができるに違いない。 同時進行でガリ版印刷についても考えてみよう。 まずは原紙を作れなければ話にならない。 紙を作るのはマイン工房の仕事だ。 「よぉし、やってみよう!」 本を作るということに燃え上って、ガッとわたしが拳を握って立ち上がると、トロンベを籠に入れ終わったルッツが次のタウの実を持って、わたしを胡乱な眼で見下ろしていた。 「マイン、行動する前に、報告、連絡、相談を忘れるなよ」 「はひ……」 ……そんな目で見なくても、明日はベンノさんに相談に行く気だったよ。 嘘じゃないもん。 ホントだよ?.

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本好きの下剋上2期21話(アニメ)見逃し動画を無料フル視聴/テレビ以外でネット配信スマホ視聴で見る方法!新しい側仕え

フェ シュピール

カルステッドとの結婚は、異母叔母であるヴェローニカからの嫌がらせから守るための政略結婚だった。 カルステッドの第二夫人のトルデリーデと第三夫人のローゼマリーの親族同士の確執では、カルステッドがローゼマリーに味方したため、トルデリーデに味方した。 しかし、トルデリーデがニコラウスを産むと、トルデリーデがヴェローニカの後ろ盾でカルステッドの後継者をニコラウスにしようと画策したため、エルヴィーラはトルデリーデとニコラウスを警戒対象にしている。 ヴェローニカからの嫌がらせを疎んでいたため、ヴェローニカから疎まれているフェルディナンドやフロレンツィアに同情的であった。 エックハルトに対しては、エックハルトがフェルディナンドに名捧げしたり、フェルディナンドの神殿入りで失意に落ち込んだり、エックハルトが妊娠したばかりの嫁と死別したりと、心労が絶えなかった。 ランプレヒトについても、ヴェローニカとのヴィルフリートの側近打診にまつわる攻防で、苦労した。 コルネリウスに至っては、二人の兄の苦労を見て、無気力で、やればできるのに本気で取り組もうとしない姿に腹立たしい思いをしていた。 ローゼマインを実子として洗礼を上げさせたことで、苦労が多かった人生に転機が訪れた。 ローゼマインはエルヴィーラにとって、春を呼ぶ水の女神であったようである。 政略結婚から始まりお互いに義務と役目を一番に置く関係だった夫婦関係が、ローゼマインを話題にすることで充実した夫婦関係に変化した。 ローゼマインからのレシピや流行の発信で自らの派閥が強化できた。 本の出版を介して、自らの趣味を満足させることができたとともに、実家に工房を作ることで現金収入を確保できた。 ローゼマインがきっかけとなって儀式を見直したことで、実家の領地が豊かになった。 フェルディナンドが復権したことで、エックハルトに活気がよみがえった。 ヴェローニカが遠ざけられたことで、ランプレヒトに関連する嫌がらせもなくなった。 コルネリウスもローゼマインに触発されて勉学にいそしむようになり、ローゼマインの側近から嫁を迎えることもできた。 フェルディナンドとエックハルトの為だけも、平民の子の実の母役を引き受けるにたると考えていたが、 ローゼマインがこれらの多くのことをもたらしてくれたことから、深い感謝を抱くと共に母として支えよう思った。 ローゼマインが、神殿とフェルディナンドの方が落ち着く様子を示していたことと、城にはフロレンツィアがいることから、表立って手を出そうとはしていなかったが 、 事業に関する寄付金集めの相談を受け、お茶会を開いてお金の集め方を示したり 、 ローゼマインを呼び寄せるのではなく、成人女性の忌避率が非常に高い神殿に、自ら足を運んだり 、 上級貴族の伝手が少ない、ローゼマインの専属商人を、自分が贔屓にしている商会であると教材販売の場で周知させたり 、 常識不足が原因で、ローゼマイン自身が困る事態に陥るであろう案件を進めていると察知すると、素早く手と口を出したり 、 迫りつつある危険の回避を可能とすべく、ゲオルギーネ派のリストを作成し、「ローゼマインをよろしくお願いいたします」と添えてフェルディナンドに文を送ったり 、 に怒りを込めてローゼマインは自分の娘だと宣言したり 、 ローゼマインの側近の婚約者探しをしたり 、 中級・下級貴族や、他派閥との接する際の問題点を諭した上で、ローゼマインに他派閥との付き合いを周りに認めさせる手段を教えたり 、 プランタン商会との契約魔術の意味を理解した上で、契約破棄と再契約を指示する領主命令に対して、ローゼマインの心が折り合いをつけることができそうな考え方を示したり 、 ギーベ・ハルデンツェルの歌ってほしいという要求にローゼマインが困っているのを見て、代わりに自分が演奏することを引き受けたり 、 アウレーリア関係で、ローゼマインの身辺の安全を確保しつつ、家族関係を築けるよう接点を持たせたり 、 ローゼマインの中央行きが確定した際に、親子協同の隠し部屋の作り方を教えたり、 ローゼマインの関係者の身の振り方や、関係者への接し方に対して助言をしたり、 フェルディナンドの連座回避達成や、ローゼマイン自身の行く末に対して、母としての心を示したり 等々、母親としてのフォローや心配りをしていた。 マインのお菓子を気に入ってレシピを交換した。 家を預かるため料理のレシピには慎重で、時間をかけてやり取りをする。 また、フェルディナンド様応援団で、ミーハーな部分もある。 日常におけるちょっとした情報でも食いつきが良い。 フェルディナンドのが決まった時は、フェルディナンドに最も近い席を確保した。 演奏会の打ち合わせという名目でへ時折訪れ、フェルディナンドに会い、ローゼマインのレシピの料理も食べていった。 演奏会当日は聞き入って失神する者が立て続けに出る中、最前列で打ち震えながらも堪えきる。 そして販売された全てのイラストを購入した。 印刷工房を実家のに作らせてからは、恋愛物語を作ったりと新しい趣味を見つけて、とても生き生きしている。 恋愛話が好きすぎるところが、本を前にしたローゼマインに非常に似ている。 エルヴィーラに恋愛話が渡ると、下手をするとユルゲンシュミット全域の晒し者になるため、エーレンフェストの学生は見つからないよう協力しあってる。 フェルディナンドがアーレンスバッハへ婿入りが決まったときは、お話の中だけでも幸せにするためを作り上げた。 経歴 前28年春 誕生 前21年春 洗礼式 前13年冬 貴族院卒業 前12年頃 カルステッドと結婚する 前10年頃 エックハルトを出産する 前09年 ランプレヒトを出産する 前03年 コルネリウスを出産する 01年頃 の親族が騒動を起こした際に、の肩を持つ 08年春~夏 ローゼマインを実子として受け入れ、洗礼式を行う 城の北の離れのローゼマインの部屋を整える 08年春 に対して、リンクベルク家厨房への立ち入り許可を出す ギルベルタ商会をリンクベルク家へ呼び出す許可を出す。 以降、得意先になる 08年夏 フェシュピール演奏会をサポートする 09年春~夏 の衣装お披露目をサポートする 10年夏 ブリギッテの結婚相手を整える 10年秋~冬 恋愛本の原稿を執筆し、ローゼマイン工房で印刷・製本をさせる。 以降、本格的に執筆活動を行う 10年秋 ハルデンツェルに印刷工房を立ち上げるべく、兄であるギーベ・ハルデンツェルを説得する 11年春 プランタン商会を介してグーテンベルクをハルデンツェルに派遣させる 11年冬 文官として復職し、印刷業や製紙業の統括役となる 下町の汚物処理設備とエントヴィッケルンに関する調査を統括する 12年頃~ ローゼマインの側近希望のの側仕え訓練を引き受ける 12年春 ローゼマインのハルデンツェル出張に同行する ハルデンツェルの春を呼ぶ儀式に参加する 12年夏 の受け入れを整える 12年秋 染色コンペをサポートする ローゼマインのグレッシェル出張に同行し、と共にを説得する 13年春~14年春 フェルネスティーネ物語を執筆し、印刷・製本化させる 13年春 ローゼマインのライゼガング出張に同行し印刷業の最終確認を行う 13年冬 粛清後の騒動を抑えるべく、ライゼガング系の調整を開始する 14年春 の名捧げを受ける の婚約者問題の調整を引き受ける リンクベルク家のローゼマインの部屋に隠し部屋を登録する の後見人を引き受ける 14年冬頃 ローゼマインに少しでも早く新しい本を届けるべく、省魔力の転移陣を使って、見本だけでも各地から城へ送ることを提案し文官達と研究する 15年春 ローゼマインとフェルディナンドの婚約式に出席する 作者コメント• 実はマインの水の女神的存在だよな 2019-10-09 01:16:29• 今後ユルゲンシュミットの識字率が上がるごとに恋愛文学の祖みたいな扱いでこの人の評価も上がっていきそう。 2019-11-14 11:59:51• ユルゲンシュミットの紫式部?w 2020-01-16 21:26:06• フェルディナンドもロゼマもいなくなったエーレンフェストの実質的な中核だな 派閥的にも産業的にも 2019-11-22 18:29:19• 内心でうちのお母様SUGEEEするロゼマさんと、内心でうちの娘SUGEEEするエルヴィーラさんの組み合わせすき。 なんかほっこりする。 2020-01-11 16:07:16• 読み直して隠し部屋の件で気がついたけどロゼマに「隠し部屋でのみ本音を出す」って言うのを知識としてではなくきちんと実感させられたってのは大きいことなんじゃないかな。 少なくとも「貴族らしさ」を教えてくれたフェルディナンドも多分実感としては知らなかっただろうし 2020-02-10 21:39:42• エラントゥーラ先生によるロゼマとフェルの恋物語はどんな物になるのかな?ロゼマが初期からフェルに懸想してる設定で史実に則った物語か、ロゼマの鈍感を生かして多数の男性から求愛される逆ハーレム…と言うかブルーアンファの奮闘記か。 個人的には後者の方が犠牲者が多そうで楽しそう。 2020-03-08 02:00:50• 他の作者から出るのに後追いするかな? 2020-03-08 06:17:59• リュールラディが書くからエラントゥーラ先生が書くことはないな。 ただ上司 ミュリエラ の上司みたいなもんだから編集長として口は挟みそう。 2020-03-08 09:59:25• そして後述ならば無実の初代恋人役にされるダームエルがかわいそう・・・。 w そしてカルステッドの息子たちが作中でキラキラしそう・・・。 2020-03-08 10:02:29• 前述をフェルネスティーネ物語の作者が送る新作長編正当派恋物語としてお母様が、後述をお母様監修の元リュールラディが、でどうよ。 登場人物はあくまでも架空の存在です。 二作のモデルが実在の人物な上に同一人物なんて言ってません 笑 2020-03-08 14:35:01• 現在のエーレン最強淑女。 大領地アレキのアウブの実母だ ということになっている し、バックボーンに最大派閥ライゼ派がいるし、女性派閥のトップだし、ユルゲンに名を轟かせる恋物語の作者だし、兄がいる実家はエーレンで数少ない印刷業の産地だし グーテンいないからエーレンで今後印刷業に関わるギーベ領地は増えない 、恋物語印税で大金入るし、アレキの流行をエーレンで最初に受けとる人だ。 おまけに旦那はアウブの筆頭護衛騎士。 上級貴族なのに領地におけるパワーバランスが突出してる 2020-05-05 23:41:09• グーテンベルクいなくても印刷関連の職人がハルデンツェル、ライゼガング、グレッシェル、キルンベルガにいるんだから領内はじわじわ広げられるだろ 2020-05-27 00:00:31• 作れることと指導できることは別じゃないかな。 口下手ヨハンも指導に苦労していた。 他所のギーベのために自分とこの職人派遣するのも負担なのに、更に指導上手くできなかったら領地事業の失敗の責任被るリスクあるんだぞ 2020-05-27 11:08:28• 職人は弟子とって後進育成するのも仕事なんだから程度の差はあれできないってことはない。 それに派遣と責任の問題に関しちゃ製紙業の方だけど最初から一か所教えたらそこから周辺ギーベに派遣、指導してもらうって計画してるんだから印刷でもできないことじゃない。 2020-05-28 21:54:54• 跡取りどうするんだろ? エックハルトはアンゲリカだから論外だし、コルネリウスもアレキに移籍してるし、消去法ならランプレヒトなんだろうけど主はギーベ落ち確定で、嫁は引きこもり希望じゃ跡取りとしては微妙だろうし…… 2020-05-27 00:03:11• どうしてもランプじゃダメというのであればジークレヒトが成人するまでカルステッドが頑張る選択があるぞ。 2020-05-27 01:36:36• 別にカルステッド家の跡継ぎにそんなに拘る必要も無い気がするしランプでいいんでない。 カルステッドもエルヴィーラも別にこだわらなさそう。 2020-05-27 01:58:23• お家が何より大事って貴族にとって、跡取り問題って拘る拘らないのレベルじゃなく重要だと思うんだが 2020-05-28 20:41:09• 跡取りって意味で考えるとコルネリウスとレオノーレの移籍が痛いな 2020-05-28 21:56:38• ユルゲンのドルオタの実例だな、少し前の優雅にシュタ速すごかった 2020-06-06 09:48:03• ドルオタが高じて同人誌まで書き出したっていうね 2020-06-06 10:33:26• 「まあ~~~~~」(サッ サッ スッ) 2020-06-06 13:42:59• この人のおかげでロゼマのアレキ行き以降も印刷業は衰退しなさそう。 2020-06-23 11:12:58• 2020-06-23 11:21:48• アレキは学術書がメインになりそうだものね。 でも騎士憧れのシュボルト先生が頑張ってくれるに違いない。 2020-06-23 13:16:51• エーレンとアレキで住み分けていくと言っているし物語や軽い読み物はエーレンで専門書の類いはアレキとかあり得るかもしれない。 2020-06-23 13:38:57• フェルと彼について行ける愉快な文官ズの論文とシュボルトの騎士物語がメインになるだろうけど、さり気なくハルトムート・クラリッサ夫妻による装飾盛り過ぎて奇書かしたロゼマ物語も混じってたりして。 2020-06-23 15:30:15.

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#26 強くてニューゲームは都市伝説。フェシュピールの実技

フェ シュピール

「今日の作曲は少し趣向を変えましょう」 フェシュピールを構えるフェルディナンド様の横で、ローゼマイン様がおっしゃいます。 ライデンシャフトの威光輝く夏の、とある昼下がり。 アレキサンドリアとして迎えた初の領主会議は多少の悶着を見せた末に恙無く幕を閉じ、ランツェナーヴェに荒らされた領内の後始末の目途も立ったある日のことだ。 フェルディナンド様の息抜きに、と土の日の午後のお茶の時間を利用して作曲することをローゼマイン様が提案したのだ。 「ほう。 趣向を変えるとは?」 「二重奏にするのです。 女性が奏でる高音部と男性が奏でる低音部の二つを歌いますので、それぞれ別の譜面に書き留めて下さいませ」 そう言うと、高く柔らかなローゼマイン様の声が響き始める。 数小節ごとに止まり、フェルディナンド様がフェシュピールを何度か奏でながら譜面に書き留めていく。 いつも通りの作曲風景だ。 「ここまでで1曲です。 では次に低音部を歌いますので、先程とは違う紙を用意して下さいませ」 今度は同じような旋律ながら、先程より低い音程での歌のようだ。 ところどころは音も速さも違う。 「……終わりです。 このように少し音程の違う旋律を同時に2人で奏でる曲なのですよ。 歌詞や編曲は後にして、少し弾いてみましょうか。 わたくしはこちらの高音部を弾きますのでフェルディナンドはこちらの低音部を弾いて下さいませ」 最初にフェルディナンド様が書き留めていた方の楽譜を手に取ると、ローゼマイン様はさっと目を通してフェシュピールを構える。 ……初見で弾けるとは、ローゼマイン様のフェシュピールの腕前もなかなかのものだな。 さすがはフェルディナンド様の指導に耐えられる方である。 そこからは側に控える者達がうっとりと聞きほれる二重奏の始まりだ。 ローゼマイン様が奏でる柔らかく透明感ある高音に、フェルディナンド様のフェシュピールの艶ややかに響く低音が合わさり、時に一方の音を追いかけるようにして絡み合う音が心地よく耳に届く。 音を合わせるためにたまに目線を交わすお二人の様子が、なんとも微笑ましく婚約者らしい甘やかな仕草である。 合わさることで一つの旋律となる音を奏でるお二人の間には、余人が入り込むことのできない空気が漂っている。 転調を何度も繰り返し、主旋律が入れ替わりながら奏でられた音は美しい余韻を残して終わった。 ……お二人には芸術の神 キュントズィールのご加護があるに違いない。 控えている護衛騎士も側仕えも、ほう……と美しい曲に感心している様子だ。 「ふむ。 なかなか良いのではないか。 これはどういった曲なのだ?」 「そうですね……。 幼き日の思い出を偲びこれから訪れる未来の希望を願う……そんな歌です。 時の流れに思いを馳せる曲といったところでしょうか」 「なるほど。 ドレッファングーアを称える歌か」 フェルディナンド様はこめかみをとんとんと叩きながら歌詞を思案しているようだ。 「また良い歌詞を思いついたら教えて下さいませ。 少し休憩いたしましょう。 新作のお菓子があるのですよ。 感想をいただきたいのです」 ローゼマイン様は考え込まれるフェルディナンド様を見てくすりと笑うと側仕え達に合図を送る。 さっとそれぞれ動き始め、机の上に菓子と茶器並べ始める。 ローゼマイン様はフェシュピールを横に控えていたロジーナに手渡しお茶会の席に移動する。 私も主が召し上がるお茶の準備のために湯の入ったポットを手に取り茶器を温め始めた。 [newpage] 「何故今まではこのような曲を作らなかったのだ?」 茶器を傾けながらフェルディナンド様がローゼマイン様に問いかける。 ローゼマイン様は頬に手を当ててこてりと首を傾げた。 「何故……、と言われましても。 わたくしの専属楽師はロジーナ一人ではありませんか。 楽士を複数人抱えていらっしゃる方などほとんどいないでしょう? 二重奏の曲を作ってもお茶会などで奏でることができません。 フェルディナンドが気まぐれに弾きたくなったときに、わたくしがお付き合いできるような曲があればと思いついただけですよ」 「ふむ、そうだな。 だが、春を寿ぐ宴など貴族が大勢集まる場では複数人の楽師に演奏させる。 そのような時に演奏させればよいのではないか? 領主会議には数人の楽師を連れていくので上位領地との夕食会で奏でさせればアレキサンドリアの新しい流行として発信することもできるであろう。 故にこのような二重奏の曲をあと何曲か考えておきなさい」 「はぁい。 今回は領主会議からずっと執務漬けで頑張って下さったことへの労いですが、次からは有料ですからね」 フェルディナンド様はかるく片眉を上げたが、とくに反論はせず「まぁ、よい」と言いながらお茶に口をつけた。 ……なるほど、ローゼマイン様とお二人でのフェシュピール演奏がことのほかお気に召したのだな。 作曲にかこつけてローゼマイン様とお二人で演奏をされたいのだろう。 「それよりも新作のタルトのお味はいかがです? この季節のアレキサンドリアは果物の種類が豊富ですので、エラにいろいろと試作してもらっているのです。 甘いものが得意でないフェルディナンドのために、お砂糖を控えめにしたカスタードクリームを使っているのですよ。 カスタードクリームはアレキサンドリアで見つけたヴァニレを使って香り付けしてみました」 ローゼマイン様は一口食べてみせ、フェルディナンド様にも勧める。 「悪くはない」 エーレンフェストにはない色鮮やかな果物を贅沢に使ったタルトだ。 主の表情を伺うにかなり気に入ったように見受けられる。 フォークの動きがいつもより早い。 ローゼマイン様はそんな様子のフェルディナンド様をにこにこと見つめられている。 去年の今頃、この領地がアーレンスバッハであったころにも口にしたことがある果物だが、全く別物のように感じる。 以前食したときはそっけなく皿に載せられていただけの果物は、美しく加工され宝石のようにきららかにタルトを彩っていた。 ……去年の今頃は、このような日が訪れるとは夢にも思わなかったからな……。 突然やってきたランツェナーヴェの者達への対応、前アウブアーレンスバッハの葬儀、その折の不審な中央騎士団の動き、ゲオルギーネへの警戒。 傾きかけた大領地を支えるための膨大な執務。 それに加えて、長年フェルディナンド様を苛んできたヴェローニカ様にそっくりな愚かな娘の相手。 毒や暗殺を警戒しつつ情報を集め、睡眠時間をけずりながら執務をとり行う生活が体に良いはずがない。 ローゼマイン様が王族に交渉して下さり与えられた隠し部屋と仕送りの素材のおかげで、なんとか体調を立て直す薬を調合できていた。 ぎりぎりまで張りつめられた糸がいつかぷつりと切れてしまうのではないかと、ただただ主の身を憂惧する日々が過ぎていく毎日だった。 今目の前にいる主は、執務の量は調整され睡眠時間を確保し、食事は口に合うものをローゼマイン様とご一緒に召し上がっている。 毒も暗殺も警戒することなく、適度な休息をとり、このようにフェシュピールや研究などの趣味に費やす余暇さえある。 一見すると無表情に見えるが、新作のタルトを食べながらローゼマイン様と他愛ない会話をする表情は穏やかでくつろいだご様子だ。 主がローゼマイン様の傍らで心身ともにお健やかに過ごされている様を見るにつけ、込み上げてくる笑いを堪えるのが大変である。 今のフェルディナンド様は、エーレンフェストにいたときのようにお小言を言われようとも嫌がっていないことが丸分かりだ。 ……時の女神ドレッファングーアよ、ローゼマイン様とフェルディナンド様の糸が再び重なる日が来たことに祈りと感謝を。 心の内でドレッファングーアへの祈りを捧げ、叶うのならばこのように穏やかな日常がずっと続くことを願っておく。 しかし私の願い空しく、この年貴族院に向かわれたローゼマイン様はドレッファングーアのお招きにより切れたフェルディナンド様の糸を繋ぎなおすためにその御身を削られた。 フェルディナンド様とローゼマイン様の糸は重なるどころか複雑に絡み合い、すでにヴェントゥヒーテが紡ぐ歴史の布に織り込まれている。 例えエーレンフェストにいようともアーレンスバッハがアレキサンドリアになろうとも、ローゼマイン様が貴族院に通われている間、フェルディナンド様は胃薬が手放せない運命のようだ。 ……長寿の神 ダオアレーベンよ、フェルディナンド様とローゼマイン様にどうかご加護を! [newpage] ごきげんなフェルディナンドを見てによによするユストクスが書きたかったのですけど、いろいろ微妙な仕上がりorz あんまり綺麗にまとまらなかったなぁ、と気に入らなくてずっと非公開でしまってあったのですが供養がてらあげておきます。 最低限の体裁をとるための加筆修正はしました。 Twitterでさらさらっと書いてSS上げている人、尊敬。 ほんとに。 ヴァニレはバニラのドイツ語読み。 曲は合唱曲「時の旅人」でした。

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